実証実験:長野県山ノ内町・平澤岳町長インタビュー|ライブカメラでのリアルタイム情報発信で町の多彩な魅力を最大限に引き出す

インタビュー・取材概要
長野県北東に位置する山ノ内町。志賀高原や北志賀高原 などのスノーリゾートを擁するだけでなく、湯田中渋温泉郷 をはじめとする100近い源泉がある温泉の町としても知られています。また、地獄谷野猿公苑の温泉に入るニホンザルは「スノーモンキー」として外国人観光客にも人気が高く、国内外から多くの観光客が訪れます。

山ノ内町では、2023年12月から2024年3月まで、株式会社シーティーエスのライブカメラを用いて、オーバーツーリズム対策を見据えた、観光情報発信の実証実験を行いました。今回は、アルペンスキー元オリンピック選手であり、現在は山ノ内町の町長である平澤岳氏に、取り組みの背景や効果についてお話を伺いました。

■ 平澤岳(ひらさわ・がく)
東京生まれ、小中学校時代を山ノ内町で過ごす。アメリカ・バーモント州のストラットン・マウンテン・スクール卒業。リレハンメルオリンピック、長野オリンピックで、アルペンスキー日本代表。2023年3月から山ノ内町長。
リアルな様子を発信し観光地としての存在感を高める
―― ライブカメラ導入の目的と、設置箇所の選定理由を教えてください。

平澤町長:リアルタイムで町の様子や天候、混雑状況、路面状況などを放映することで、今この瞬間の山ノ内町の状況を伝え、旅の候補地としての魅力を発信することが第一の目的です。また、一部の観光地に観光客が集中するオーバーツーリズム対策として、分散化を図る狙いもあります。

今回の実証実験では、山ノ内町の玄関口である長野電鉄湯田中駅 、道の駅「北信州やまのうち」、スキー場が見渡せる「志賀高原山の駅」3カ所、計4台のライブカメラを設置しました。


―― ライブカメラの導入に至った経緯について、詳しく教えてください。

平澤町長:まずコロナ禍を経て、混雑状況の可視化ニーズが高まったことが背景にあります。また、私が北海道でカフェを経営していたときに、人気のテラス席の混雑具合を伝えるためライブカメラを設置していたのが好評だったという、自身の経験もあります。

加えて、世界的に人気のある観光地の多くが、ライブカメラで魅力を発信していることも参考になりました。特に、フィンランドのスノーリゾート・レヴィのライブカメラには感銘を受けましたね。マイナス20度の極寒の中でも、雪質や積雪量がはっきりとわかる高画質映像を配信しており、見るたびに「ここに行きたい」と、スキーヤー魂がうずきました。山ノ内町のスキー場もこんな発信をしたいと思ったんです。

そこで、レヴィに直接連絡を取り、カメラのメーカーを教えてもらいました。スウェーデンのカメラメーカー・アクシスのものだと判明したので、さらに調べて日本の代理店であるシーティーエスに連絡したという経緯です。

シーティーエスは、問合せから1カ月足らずで思い描いていたネットワークカメラのライブ配信の仕組みを形にしてくれたので、迅速に実証実験に入れました。時期を逃さず実証実験を開始したことで、カメラの性能や耐候性を十分に確認でき、観光商工課 、観光局を含め速やかに検討段階に進むことができました。


―― ライブカメラで発信したい山ノ内町の情報や魅力はどんな点でしょうか。

平澤町長:まず、スキー場のライブ映像では、天候やリフトの混雑具合、ゲレンデの滑走状況などをリアルタイムで確認できます。シーズン始めから春半ばまで豊富に雪があり、雪質がよいことが伝わればと思っています。こうしたリアルタイムでの情報は、行先に迷っているお客様にとって、大きな判断材料となるはずです。

また、長野電鉄湯田中駅や道の駅のカメラからは、観光地へのアクセス状況や駐車場の混み具合なども把握でき、観光客の利便性向上に寄与すると考えています。


―― 既存客のニーズに応えつつ、新たに興味をもつ人を増やす試みですね。

平澤町長:ええ、山ノ内町は観光と農業の町です。特に観光はスキー場を中心に発展してきました。しかし、施設の老朽化などの課題を抱え、近年は他のスノーリゾートに後れを取っている面も否めません。これからの50年を見据えた時、観光振興の舵取りを事業者任せにするのではなく、行政としても主体的に関わり、リーダーシップを発揮していく必要があると思っています。

ライブカメラはその取り組みの一環です。リアルタイムの情報発信で、選ばれる観光地としての存在感を高め、通年での誘客を目指します。

外国人観光客の開拓も重要なテーマです。欧米ではスキーブームが再来しており、北米のスノーリゾートは大混雑です。外国人観光客の目がアジアに向く中、アジアの雪国である日本有数のスノーリゾートとして、山ノ内町の注目度はますます高まると予想されます。世界に通用する高品質の映像を配信することで、海外からの集客力を強化したいと考えています。
カメラデータの活用でエビデンスベースの観光施策を
―― ライブカメラの導入効果はいかがでしたか?

平澤町長:実証実験の段階ではありますが、観光案内所でライブカメラの映像を放映することで、有名な地獄谷野猿公苑だけでなく、スキー場や温泉街など、町内にたくさんある他の魅力的なスポットもアピールできました。訪れた観光客の方に「同じ町内で他にもこんなに魅力的な風景が見られるんだ」と興味を持っていただくよいきっかけになっています。

実証実験は4カ月間なので、いきなりはっきりとした効果は分かっていませんが、長く取り組むことで、じっくり認知度をあげていければと思っています。雪や温泉だけでなく、春の桜や新緑、夏の果樹、秋の紅葉など、四季折々の美しい自然の姿もお届けしていきたいですね。


―― ライブカメラをオーバーツーリズム対策に活用する点について詳しく教えてください。

平澤町長:人気観光地の混雑状況をライブカメラで可視化し、観光客を分散させることを目指しています。デジタルサイネージと連携させ、混雑しているスポットだけでなく、他の観光地の映像も流すことで、周遊を促したいと考えています。

例えばひとつの構想として、混雑する地獄谷野猿公苑周辺のバス停のデジタルサイネージに、素晴らしい雪質の志賀高原スキー場や、ジブリ映画のようなノスタルジックな雰囲気のある渋温泉の映像を流すことができれば、それを目にした観光客は、「こんなに素敵なところがあるのか」「行ってみようか」と興味をもつかもしれません。できれば予定より1~2カ所足をのばして、町内の魅力を堪能してもらいたいですね。


―― ライブカメラのデータ活用で、どのようなマーケティング強化を図りますか。

平澤町長:長野電鉄湯田中駅のライブカメラでは、すでに乗降者数のカウントを行っています。こうしたデータを収集・分析することで、需要予測の精度を高め、戦略的なプロモーションを展開できるはずです。

将来的には、AIを活用した映像解析により、観光客の属性や行動パターンをより詳細に把握することも視野に入れています。渋滞対策や混雑緩和、周遊ルートの最適化など、データの利活用を推進し、エビデンスベースの観光施策を実現したいと考えています。


―― プライバシー問題にはどのような対策をされていますか。

平澤町長:今回の実証実験の検討課題の中には、プライバシー保護のベストな方法を模索することも入っていました。例えば、個人が特定できないようカメラの画角や距離を調整したり、必要に応じてモザイク処理を施したりするなどの対策を考えています。

一方で、ライブカメラに映ることを楽しみにしている観光客の方々もいらっしゃいます。実際に、外国人観光客がカメラの前で手を振って、「今カメラに映っているから見て!」と電話している姿を目にしたこともあります。そうした一期一会のコミュニケーションツールとしても、ライブカメラの良さを感じていただければ嬉しいですね。
四季折々の多彩な魅力をライブカメラを通して発信
―― 自治体としては、ライブカメラ導入のメリットをどのようにお考えですか。

平澤町長:ライブカメラは、地域の様子をリアルタイムかつオープンに発信します。透明性の高いリアルな情報ですから、観光客の方々にとっては素晴らしい情報源となります。

一方で、自治体の中には「ネガティブな場面が映ってしまうのでは」と懸念を抱く方もいらっしゃるかもしれません。しかし、情報をオープンにすることのメリットは、それを上回ると私は考えます。インターネットやSNSが発達している現代、リアルタイムな現地の情報が得られることは、もはや当たり前のことになりつつあります。そのニーズに応えることは、観光地としての存在感を高めることにつながるのではないでしょうか。


―― 最後に、山ノ内町の魅力と今後の展望についてお聞かせください。

平澤町長:山ノ内町は、山地と平地、春夏秋冬、それぞれに様々な表情をもつ豊かな土地です。温泉に入るニホンザルは世界的にも珍しくとても愛らしいですし、白銀のスノーリゾートと1350年以上の歴史を誇る良質な温泉は最高の組み合わせです。

春はゴールデンウィーク頃までスキーと桜を同時に満喫でき、夏から秋にかけては、りんごや桃など果物狩りが楽しめる。冬はパウダースノーの聖地として、最高のスノーアクティビティを提供できる。この多彩で贅沢な観光資源を、ライブカメラを通じて国内外に発信し、通年での誘客を実現していきたいと考えています。

リアルタイムの映像による旅先としての魅力、それを起点とした効果的なプロモーションとおもてなしの好循環を生み出すことこそが、山ノ内町の観光の起爆剤になると思っています。

皆さまも、山ノ内町のライブカメラでリアルタイムの様子をご覧ください。そしてぜひ足を運んで魅力を実際に確かめて下さい。いつでもお待ちしております。

クラウドアプリ・映像サービス 納入事例カテゴリー

全て 自治体